公開:2016/05/28 伊藤 みさ │更新:2020/07/03

オバマ大統領のスピーチ全文、広島で「声なき叫び声に耳を傾ける」

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核なき世界を訴え続けるアメリカのオバマ大統領が、広島を訪問した記念すべき日に語った、17分に渡るスピーチ全文。

オバマ米大統領は2016年5月27日、安倍首相と共に現職のアメリカ大統領として初めて被爆地・広島を訪問しました。

オバマ大統領のスピーチ全文、広島で「声なき叫び声に耳を傾ける」

オバマ大統領は伊勢志摩サミット終了後に岩国の米軍基地を経由し、広島に到着。厳重な警備体制の中、爆心地そばの広島平和記念公園を訪れました。

最初に原爆資料館を視察し、その後 原爆死没者慰霊碑に献花。オバマ大統領は目を閉じて黙祷した後、約17分に渡るスピーチがありました。

オバマ大統領のステートメント(スピーチ)和訳全文

71年前、いつもと変わらない平和だった朝、空から「死」が舞い降りて世界が変わってしまいました。閃光と炎の壁によって都市が破壊されました。そしてまた、人類が自らを破滅させる手段を持ったことが示されました。

なぜ私たちは広島を訪れたのか。それほど遠くない過去に解き放たれた、恐ろしい力に向き合い想いを馳せるためやって来ました。

何十万もの日本の老若男女、何千万もの韓国・朝鮮の人々、そして12人のアメリカ人捕虜の死を悼むためにやって参りました。

被害者の魂が私たちに語りかけます。私たちは一体何者なのか、そして自分たちがどうなったのかを振り返るために、内省するよう求めています。

戦争という事実が際立たせているのは広島だけではありません。古代の遺物を見れば、人類の誕生と共に暴力的な紛争が起きた事がわかります。人間の初期の戦争は石から鋼を、そして木から槍を作ることを学び、こうした道具を狩りだけでなく同じ人間に対しても使いました。

どの大陸でも、文明の歴史は紛争で満ちています。乏しい穀物をめぐって、あるいは富への渇望、熱烈な国家への想いや宗教的熱情によって突き動かされた結果でした。

帝国は攻防し人々は隷属や解放を繰り返しました。それぞれの歴史の節目で罪のない無数の人たちが苦しみ、犠牲を強いられ、そして時の流れの中で忘れ去られていきました。

広島・長崎で残酷な終決を迎えたあの世界大戦は、世界で最も豊かで物質的に進んだ、アイデアと美を重んじる文明を持つ国家間の戦いでした。

素晴らしい芸術を生み、そしてまた思想家たちが正義と真理と概念を伝えました。しかし、支配欲や征服欲などから、戦争が生まれたのです。

わずか数年の間に6000万もの人々が亡くなりました。私たちと何ら変わらない老若男女が、弾丸を浴び、殴られ、行進させられ、爆撃され、投獄され、餓死させられ、毒ガスで殺されたのです。

これらの悲劇を記録してある場所は数多くあります。兵士の犠牲について語り継ぐところもあれば、信じられないような残虐行為がされたことを表す墓地や空っぽの収容所など。

しかし、この空に上がったキノコ雲のイメージは、人類が抱える根本的な矛盾を思い起こさせます。他人と自分たちを区別してきた思想、想像、言語、道具を作る能力。そして自らを人間の本質と切り離し、思い通りに本質を曲げたりする。

それは比類なき破綻をもたらす力を私たちに与え、どれだけの悲劇をもたらすものとなってしまうか。いかに物質的な進歩や社会的な革新によって私たちはこの真実が見えなくなっていたか。いかに「より高い大儀のために」と暴力をたやすく正当化してきたか。

どんな偉大な宗教も、愛や平和・正義の道を説いています。それにも関わらず、その信仰ゆえに殺人をおかしたと主張する信者たちから逃れることができません。

犠牲と偉業を成し遂げるべしという物語で人々を結束させます。しかしその同じ物語が往々にして自分たちとは異なる人々を弾圧し、人間性を奪うためにも使われてきました。

科学によって人間は、海を越えて通信し、雲の上を飛び、病を治し、宇宙を理解することができるようになりました。しかし、これらの発見は人間をより効果的に効率よく殺害する手段に転じさせることができます。

現代の戦争はこの真理を教えてくれます。広島が、この真実を教えてくれます。

技術の進歩と人間社会が同等の進歩を伴わないのならば、全人類を破滅させる可能性があります。原子の分裂へとつながった科学的な変革には、道徳的な変革も求められます。

だからこそ私たちはこの場所に来るのです。ここに立ち、この街の中心に立ち、そして爆弾投下の瞬間を自ら想像します。目の当たりにした光景に狼狽(ろうばい)する子供たちの恐怖を感じようとします。声なき「叫び声」に、耳を傾けます。

あの悲惨な戦争の犠牲になったすべての罪なき人々を記憶します。それ以前の戦争においても。また、未来において起き得る戦争で犠牲となる人々のことを心に抱きます。

言葉では、このような苦しみを表現することはできません。しかし、真っ向から歴史を見据える共通の責任を私たちは持っています。そして、自らこのような苦しみの再発を防ぐために、一体今までと何を変えなければならないのかを自問しなくてはなりません。

いつの日か、証人としての被爆者の声を聞くことが叶わなくなる日が来るでしょう。しかし、1945年8月6日の朝の記憶を忘れる事があってはなりません。

この記憶によって私たちは慢心と戦わなければなりません。また、より大きな想像力を働かせ、私たちが変革するための力となります。

あの運命の日以来、私たちは希望をもたらす選択をし、日米両国は同盟関係と友好関係を構築しました。

また、欧州諸国では商業や民主主義で結ばれた連合を築きました。抑圧された人々は自由を勝ち取りました。国際社会は戦争を回避し、そして核兵器を制限し、後退させ、究極的には廃絶するために働く条約を作り上げました。

それでも今日、世界で目の当たりにする国家間の攻撃的な行動、テロ、残虐行為は私たちの仕事に終わりがないことを物語っています。

人間の悪業を完全にやめさせることはできないかもしれません。そのため、国家や同盟は私たちを防衛するための手段を持つ必要があります。しかし、我が国のような核保有国は勇気を持って、核のない世界を追求しなければなりません。

私が生きている間に、この目標は達成はできないかもしれません。しかし、粘り強い努力で、迫りくる大惨事の雲を晴らす可能性を追い求めていきたいと思っています。

このような破壊をもたらす核兵器の保有を減らし、死をもたらすこの物質が狂信者たちの手に渡り拡散されないようにしなくてはならない。

しかしそれだけでは不十分です。世界を見回すとライフルやヘリコプターでさえ、大規模な暴力の手段となります。戦争に対する私たちの考え方を変えねばなりません。紛争を外交的手段で解決することが必要です。

また、国家間の相互依存の高まりは争うための要因ではなく、平和的な協力の要因とみなし、破壊能力ではなく何を築きあげるかで国を定義づけるべきです。

そして、何よりも私たちは同じ人類の一員であるという繋がりを、再確認せねばなりません。その繋がりこそ人間独自のものです。

私たちは過去の間違いから学ぶことができます。選択することができます。子供たちに人類の共通性を説き、別の道もあるのだと語ることができます。戦争勃発の可能性をより少なくし、残虐行為をより容認しにくい物語を語るべきです。

これは被爆者の物語の中に見ることができます。

被爆者の方々の話を聞きました。本当に憎んでいるのは戦争自体であると。別の男性は、アメリカ人が殺害されるのを見て、自分の失ったものとアメリカ人捕虜の家族が失ったものは同じだと感じた事を話してくれました。

アメリカの国の物語は非常に簡潔な言葉で始まります。「すべての人類は平等である。」

生命の自由、幸福を追求する権利は誰もが生まれ持ったものです。しかしそれはアメリカ国内・国民であっても実現することは決して簡単なことではありません。

しかし、目指す理想であります。大陸と海洋を超えた理想です。すべての個人が損なわれることがなく、すべての命が尊いものであり、私たちは「人間」という一つの家族の一員だという極めて核心的かつ必要な概念をすべての人が語っていかなければならない物語です。

だからこそ私たちは広島に来たのです。大切な自分の愛する人々のことを想うためです。

朝いちばんに見る子供の笑顔、キッチンテーブルでそっと触れる配偶者のやさしさ、ほっとさせてくれる親の抱擁、そのようなことを思い浮かべ、同じような貴重な瞬間がこの広島の71年前にもあったのだということを考えることができます。

亡くなった人々は、私たちと全く変わりません。多くの人がこれを理解できると思います。もはやこれ以上の戦争は望んでいません。科学は人々の生活を消し去るものではなく、生活を向上させるために使ってほしいと考えています。

そしてまた、国家のリーダーが選択や反省をするとき、その知恵が広島から得られるでしょう。

ここで世界は一変しました。しかし今日、この街のこどもたちは1日を平和な中で過ごしています。なんと尊いことでしょうか。この生活は守る価値あるものです。そしてそれをすべての子供たちに与えるべきものであります。

それが我々の選ぶべき未来です。その未来では、広島・長崎は核戦争の幕開けではなく道徳的に覚醒した地として知られることでしょう。

*   *   *

photo / The White House


上記内容は日本政府が公開したステートメント映像の同時通訳の文字起こし。公式文書はホワイトハウスが公開しています。

穏やかな表情で被爆者と言葉を交わす場面も

日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の坪井直さんの言葉に優しく耳を傾けながら言葉を交わしたり、被爆米兵の調査を行ってきた被爆者の森重昭さんをそっと抱き寄せる場面もありました。

その後、オバマ大統領は「もう少し近くで(原爆ドームを)見たい」と平和公園内を移動し、原爆ドームを川越しに視察しました。

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